
必読ポイント
- 対象者:国内外の貿易プラットフォーム(PF)を利用して自社システムと接続したい中堅・中小企業(類型1)、または自社の貿易PFと他のPFを接続したい中堅・中小システム提供会社(類型2)。
※大企業も申請可能ですが、類型1の場合は取引先等の中堅・中小企業2社以上を巻き込んだ共同申請(計3社以上)が必須となります。
- 目的:貿易プラットフォームと自社システム等の連携・開発費用の支援による、貿易手続のデジタル化、コスト削減、およびサプライチェーンの強化。
- 公募締切・注意点:【第1次公募】2026年7月21日(火)正午必着。
本事業は事後精算型です。必ず「交付決定後」にシステム会社等への発注・契約を行い、事業実施期間内(交付決定後〜2027年2月19日(金))にシステムの開発・導入および費用の支払いをすべて完了させる必要があります。また、申請は電子申請システム「Jグランツ」から行う必要があり、事前に「GビズIDプライムアカウント」の取得が必須となります。
「紙の書類が多く、通関や船積みの手続きに時間がかかっている」
「担当者が不在だと貿易業務が止まってしまう」
「現在、自社の貨物がどこにあるのか、電話やメールで個別に確認している」
こうした課題を抱える企業に向けて、貿易業務のデジタル化を後押しする経済産業省の「貿易プラットフォーム活用による貿易手続デジタル化推進事業費補助金」が公募中です。本制度は、中堅・中小企業にとって活用しやすい条件(最大補助率2/3、単独申請が可能など)が設けられています。
本記事では、対象となるシステムが企業の課題解決にどう役立つのか、また制度の仕組みから申請のポイントまでをわかりやすく解説します。
※本補助金は夏ごろに第2次公募が予定されていますが、この記事でご紹介するのは原則として第1次公募に関する内容です。
第1章:貿易のデジタル化は待ったなし
まずは、この補助金がどのような背景から創設され、対象となるシステムが企業の業務にどう役立つのかをご説明します。
1.1 業務効率化とリスク対応は急務
国が補助金を交付して貿易のデジタル化を支援する背景には、以下のような、従来からの非効率な手続きの改善と、新たなリスクへの対応という大きな目的があります。
拡大を続ける世界貿易:UNCTAD(国連貿易開発会議)は2025年12月、同年の世界の貿易額が初の35兆ドル超えとなる見込みであることを発表しました。>>記事はこちら
このように世界貿易は、世界経済を支える基盤として拡大を続けています。
現場に残る紙と手作業の課題:取引の規模が拡大しているにもかかわらず、実際の貿易の現場では、いまだに膨大な紙の書類(B/L(船荷証券)やインボイス、原産地証明書など)がやり取りされています。また、PDFや紙の書類を見ながら別のシステムへ手入力(転記)したり、貨物の到着や手続きの進捗を、電話やメール、FAX、クーリエ(国際宅配便)を使って個別に確認・伝達したりするといった、手作業に頼る非効率な状況が続いています。この手続きの煩雑さは、事業者の時間とコストを圧迫する長年の課題となっています。
地政学リスク等によるサプライチェーンの脆弱性:さらに近年、ロシア・ウクライナ問題や中東情勢といった地政学リスク(国際情勢の不安定化)が高まっています。予期せぬトラブルが起きた際、紙と手作業による情報管理のままでは、貨物の現在地を素早く把握したり、代替ルートを確保したりすることが困難です。結果として、製品の供給網(サプライチェーン)が寸断されやすいという脆弱性が、国全体の問題として浮き彫りになりました。
デジタル化に伴うシステムの乱立と国際標準化の推進:一方で、デジタル化が進む中で新たな課題も生まれています。国内外で様々な貿易システムが乱立し、システム同士の「規格(データの共通言語)」が統一されていないため、結局データが連携できないという問題です。この状況を根本から解決するため、国は単なるデジタル化にとどまらず、国連機関(UN/CEFACT等)と連携して世界共通の「国際標準規格」を策定・普及させる取り組みを進めています。
貿易PFの導入支援へ:こうした非効率な手続きの改善、サプライチェーンの強化、そして国際標準化を通じたネットワークの構築を同時に実現する手段として、貿易プラットフォーム(以下「貿易PF」)の活用が推進されています。日本の貿易網全体を強化するという国の目的を推進するため、補助金によるシステム導入支援が行われているというわけです。

1.2 貿易プラットフォーム(PF)の概要と機能
上記の課題でも触れましたが、これまでの貿易実務は、荷主、フォワーダー(貨物利用運送事業者)、船会社、税関、銀行、保険会社などの間で、紙の書類(PDFやFAX含む)を順次渡し合うような状態で進められてきました。貿易PFは、この関係者間のやり取りをオンライン上で一元化し、貿易データを共有・活用できるようにする基盤(システム)のことです。
具体的には、貿易文書(インボイスなど)の作成や情報処理、輸送貨物の追跡(トラッキング)、貿易決済などの機能を持っています。
1.3 貿易PFでメリットを得られる企業と具体的な効果
貿易PFの導入は、主にBtoB(企業間取引)の本格的な貿易実務を行っている企業に大きな恩恵をもたらします。具体的には以下のような業種・業態であり、後述する第2章の補助対象事業者の主な対象にもなります。
- 荷主企業(製造業、商社、小売・卸売業など):自社で製品や原材料の輸出入を行っている企業です。自動車部品、機械、食品、アパレル、日用品雑貨、化学品など、幅広い商材を扱う企業が該当します。
- 物流・関連事業者(フォワーダー、通関業者、海貨・倉庫業者など):荷主から依頼を受けて、国際輸送のコントロールや通関手続きなどの実務を代行する企業です。
こうした対象企業において、貿易PFを導入すると、1.1で触れた現場に残る紙と手作業の課題が、次のように解決されると期待されます。
- 紙やPDFの書類作成・転記入力に負担を感じている企業:データがシステム上で連携されるため、同じ情報を何度も打ち直す手間や入力ミスが削減されます。民間の調査結果によると、貿易PFの導入により、荷主業務において貿易手続にかかる業務時間が44%短縮できたという結果も報告されています。
- 貨物の現在地や到着予定の確認に手間取っている企業:船の遅延や貨物の現在地を、関係各所に電話やメールで個別照会する手間が減り、システム上で状況を確認しやすくなります。
- 担当者不在で業務が滞る属人化を解消したい企業:システム上で進捗や書類の添付状況が一覧で共有されるため、特定の担当者しか業務の状況がわからない事態を防ぐことができ、コンプライアンスの強化にも繋がります。
1.4 【注意】越境EC(オンラインショップ)等の事業は対象外
本事業における貿易プラットフォームとは、複雑な貿易実務を効率化するシステムを指します。そのため、一般消費者向けの電子商取引(EC)プラットフォームを活用した事業(オンラインショップ等での海外販売など)や、単なる輸出入事業そのものに係る経費は、本補助金の対象外と規定されていますのでご注意ください。
第2章:事業の概要・必須要件と注意点
本補助金は、中堅・中小企業向けに一部の要件が緩和されています。この章では事業概要を確認しましょう。
2.1 補助対象事業者
事業者の立場に合わせて2つの「類型(コース)」が用意されています。一般の貿易事業者の多くは【類型1】に該当します。
- 【類型1】国内外の貿易PFを利用しようとする日本国内の法人:自社のシステムと特定の貿易PFをつなぎたい一般の貿易事業者向け
- 【類型2】貿易PFを提供する日本国内の法人:自社の貿易PFを他のPFとつなぎ、申請者を含めて計3つ以上のPFが連携するネットワークを作りたいシステム提供会社向け
【システム提供会社(PF)が補助対象となっている意義】
現在、国内外で様々な貿易PFが存在しており、自社と取引先で使っているPFが違うためデータ連携ができない、複数のPFに個別につなぐとコストが二重にかかるといった課題が生じています。
そこで国は【類型2】を設け、PF提供者に対して「他のPFと連携するための開発費」を支援しています。これにより、PF同士がつながれば、利用する企業(中小企業など)は自分が契約している1つのPFにつなぐだけで、違うPFを使っている取引先ともデータ連携ができるようになります。つまり【類型1】で「個別の企業のデジタル化」を支援し、【類型2】で「社会全体のネットワーク化」を進めるという枠組みになっています。
なお、類型2の審査では、接続先のPFが具体的に特定されており、実現可能性の高い確実な開発計画であることが厳しく問われます。そのため、システム利用者が「繋いだのに結局使えなかった」という不利益を被る心配は少ない仕組みとなっています。

2.2 中小企業は単独申請が可能
本補助金の【類型1】において、大企業が申請する場合は、以下の要件が課せられています。しかし、中堅・中小企業であればこうした縛りがなく、自社単独での申請が可能です。手軽に自社の課題解決に取り組める点が大きなメリットです。
- 取引先の中堅・中小企業2社以上を巻き込んだ共同申請(計3社以上)であること
- 連携によって、これまでの紙や手作業の手続きが3割以上デジタル化される計画であること
- 事業実施期間中に、自社の取組内容を自社HPやセミナー等で発信することに同意していること
2.3 補助上限額と補助率
企業規模によって補助上限額と補助率が異なります。まず企業規模の定義を確認しましょう。
【企業規模の定義について】
- 中小企業:業種ごとに「資本金3億円以下または従業員300人以下(製造業等の場合)」といった要件が定められています。
- 中堅企業:中小企業に該当しない企業のうち、「常時使用する従業員数が2,000人以下」の企業を指します。
- (注意)みなし大企業について:中小企業の要件を満たしていても、資本金5億円以上の大企業に株式を100%保有されている等の場合は「みなし大企業」となり、大企業と同じ条件が適用されます。
- 類型1(システムを利用する企業向け)
- 中小企業:補助率 2/3(上限額 2,000万円)
- 中堅企業:補助率 1/2(上限額 2,000万円)
- 大企業(みなし大企業含む):補助率 1/3(上限額 1,500万円)
- 類型2(PFを提供する企業向け)
- 中小企業:補助率 2/3(上限額 5,000万円)
- 大企業・中堅企業(みなし大企業含む):補助率 1/2(上限額 5,000万円)
2.4 補助対象経費
本補助金は、社内全体のIT環境整備を対象とするものではありません。イメージとしては、市中の電線(貿易PF)に、自宅(自社システム)をつなげるための接続工事費を補助する制度です。
具体的には、システムの開発・接続に関連する以下の経費が対象となります。
- 委託・外注費(費用の中心):外部のシステム会社に、貿易PFとの「接続プログラム」の開発や、それに伴う自社システムの改修を依頼する費用
- 人件費:自社のエンジニアが、上記の開発や接続作業に直接従事した時間に対する給与
- その他の経費:事業に必要な国内・海外出張費(旅費)、アルバイトなどの補助スタッフの賃金(補助員人件費)
2.5 接続に直接関係ない経費は「補助対象外」
貿易PFとの接続に直接関係のない、以下のような社内インフラの整備は補助対象外となります。
- パソコンなどの端末購入費
- 社内ネットワークなどの全社的な環境整備費
- 貿易PFとの接続に直接関係がない、その他の社内システムの改修・新規構築
- 事業実施期間終了後の運用経費や保守費用(ランニングコスト等)
消費税の扱いに注意
補助金額は原則、税抜きで算定しますが(免税事業者等を除く)、実際の申請書類には税込みと税抜きの両方を入力する欄が混在しています。入力ミスを防ぐため、書類作成時は「公募申請書類作成の手引き」等の公式資料を必ず確認してください。
第3章:申請フローの全体像と審査のポイント
3.1 申請から入金までのステップ
第1次公募は2026年7月21日(火)正午必着、第2次公募は2026年夏ごろに予定されています。入金までの主なフローや注意点は以下の通りです。
- アカウント登録:電子申請システム「Jグランツ」を利用するため、「GビズIDプライムアカウント」を事前に取得します。
- 公募申請:事業計画を作成し、Jグランツ経由で提出します。
- 審査・交付決定:審査を経て、補助金の交付決定を受けます。必ず交付決定を受けてから、システム会社等への発注・契約を行ってください。事前の発注は補助対象外になります。
- 事業実施:交付決定から2027年2月19日(金)まで。システムの開発や支払いを進めます。
- 実績報告・確定検査:事業完了後、実績報告書と証拠書類(請求書や振込明細等)を提出し、事務局の検査を受けます。
- 精算(入金):検査後、金額が確定した後に補助金が振り込まれます。

3.2 審査における必須事項と評価項目
本補助金の審査は、大前提となる必須事項をクリアした上で、各評価項目に対して段階的に加点が行われ、総合点が高いものから採択される仕組みとなっています。
【クリアしなければ即・不採択となる必須事項】
補助対象事業や事業者の要件を満たしていること、応募対象外の事業ではないことなど、制度の基本的なルールを満たしているかが確認されます。これらを一つでも満たさない場合は、いかに優れた事業計画であっても不採択となります。
【段階的に加点される評価項目】
必須事項をクリアした計画に対し、主に以下の観点で段階的な加点(評価)が行われます。
- 事業の目的・費用対効果:貿易コストの削減効果や、データ連携の範囲・機能が明確に設定されているかが評価されます。
- 国際標準への対応:第1章で触れた通り、国はシステム同士のシームレスな連携を重視しています。そのため、自社が導入するシステムにおいて国際標準規格を活用(又は将来的な実装を検討)しているか、国際ルールの普及に貢献しているかが重要な評価ポイントとして組み込まれています。
- 事業の実施方法や組織の能力等:実施スケジュールや予算設定の妥当性、体制の専門性のほか、過去のシステム導入経験や財政基盤などが評価されます。また、組織の能力等を測る指標の一部として、以下の条件を満たしていることも加点対象となります。
- 賃上げの取り組み:中小企業等において、給与総額を対前年度比等で2.5%以上増加させる計画を従業員に表明していること。
- ワーク・ライフ・バランスの取り組み:「えるぼし(女性活躍推進)」「くるみん(子育てサポート)」「ユースエール(若者雇用促進)」などの認定を取得していること。
3.3 大企業から共同申請に誘われたらチャンス
前述の通り、大企業が申請するには、取引先の中堅・中小企業と一緒にデジタル化を進めること(3割以上のデジタル化)が必須条件であり、その割合が高いほど大企業の審査が有利になる仕組みになっています。そのため、取引先である大企業から「補助金を使って、一緒にシステムをつなぎませんか?」と提案を受ける可能性があります。
「補助金をもらえるのは大企業だけでは?」と思われるかもしれませんが、共同申請に参加した中堅・中小企業も、自社のシステム改修費等に対して最大2,000万円の補助金を直接受け取ることができます。補助率も中小企業は2/3、中堅企業は1/2と優遇されています。
さらに、大企業が「幹事法人」として申請書類の取りまとめ等を行ってくれるため、単独で申請するよりも手間を省けるメリットがあります。
こうした提案があった場合は、自社の費用負担を抑えつつ貿易業務を効率化する絶好のチャンスとして、前向きに検討することをおすすめします。
第4章:よくある質問
-
令和7年度に実施されていた類型2(実証事業)とは違うのですか。
-
はい、異なります。令和7年度に実施されていた「旧・類型2(貿易PFの効果を検証する実証事業)」は実施されません。令和8年度の「類型2」は、貿易PFを提供する事業者向けの新たな枠組みとして再定義されています。
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システム開発を外部に委託する場合、相見積もりは必要ですか。
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はい、必要です。可能な限り複数社から相見積もりを取り、最低価格を提示した業者を選定してください。相見積りを取っていない場合又は最低価格以外の業者を選ぶ場合は、理由を記載した選定理由書が必要です。
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補助金を使って開発したシステムを、後から別の目的に使ったり、処分したりすることは可能ですか。
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補助金で導入した単価50万円以上(税抜き)の財産(システム等)は、国が定めた処分制限期間内において、他の目的に使用したり、譲渡・廃棄したりすることが制限されています(財産処分の制限)。処分等を行う場合は、必ず事前に事務局の承認を得る必要があります。承認を得ずに処分した場合、補助金返還などの対象となる可能性があります。
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補助金を受給した後、報告などの義務はありますか。
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事業終了後の5年間は、事務局からの問い合わせに応じて、貿易手続のデジタル化推進状況(PFを通じた取引件数など)の「フォローアップ報告」を行う義務があります。
第5章:長年の課題克服のチャンス
貿易業務の現場には、紙の書類、転記作業、担当者依存といった長年の課題が残っています。 本補助金は、こうした「変えたいのに変えられなかった部分」の刷新を、国が後押しするための制度です。
中堅・中小企業であれば、最大2,000万円・単独申請可という使いやすい条件が整っています(中小企業は補助率2/3、中堅企業は同1/2)。貿易PFとの接続は、業務効率化に加え、属人化の解消やサプライチェーン強化にもつながります。
申請にはGビズIDプライムの取得など、早めの準備が必要です。もし自社の貿易業務を見直したいと感じているなら、今回の補助金はその一歩を踏み出すための確かな支援となるはずです。
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